研究内容|Research
1. 運動によって変化する脳の構造と機能を視る
運動と脳に関する多彩な研究を行っている。例として、運動の好き・嫌いを決める遺伝子群の同定を試みている。運動意欲には脳内ドーパミン系が関与するとされていることから、運動の嗜好性にはドーパミン関連遺伝子群が関与していると考えている。また、運動の限界を決める脳内メカニズムについても調べている。長時間運動などで感じる疲労感(苦しみ)の一部は扁桃体と呼ばれる脳部位で感じ、運動パフォーマンスに強く影響すると考えている。また、扁桃体の興奮は自律神経を介して骨格筋などの血液供給に影響し、筋などの疲労物質蓄積を増悪する。その結果、苦しみがより強くなり、運動意欲の低下が起こると考えている。現在、動物モデルを用いてこれらの仮説を検証しているところである。
2. 健康・超健康脳における循環調節中枢の構造と機能
血圧は脳(交感神経系)により調節されている。遺伝やストレスは脳細胞に作用し、交感神経の働きを強くする。その結果、血管の先(末梢血管系)が細くなり血液の流れが悪くなるため、高血圧になる。定期的に運動すると高血圧が改善する。この理由の一つは運動が脳にもたらす作用(遺伝子への影響と脳細胞、すなわちニューロンへの影響)によると考えている。右図は本仮説を検証するための研究方法概略を示す。高血圧の動物モデルを用い、血圧を調節する脳部位の遺伝子検査と脳細胞の異常の有無を特殊な顕微鏡を用いて観察する。また脳機能の評価も行う。そして、運動習慣が脳へもたらす効果についても明らかにする。
(1) 生活習慣病の発症や運動による予防・改善効果に関する研究
【関連研究】
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なぜ日常の運動習慣がストレスによる高血圧発症を防ぐのか? ― 運動習慣は視床下部の炎症反応を抑制する― | 2023年6月12日
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Nguyen TV, Yamanaka K, Tomita K, Zubcevic J, Gouraud SSS, Waki H.
Impact of exercise on brain-bone marrow interactions in chronic stress: potential mechanisms preventing stress-induced hypertension. Physiol Genomics. 2023 Mar 20. -
Yamanaka K, Suzuki M, Pham LT, Tomita K, Van Nguyen T, Takagishi M, Tsukioka K, Gouraud S, Waki H.
Involvement of D1 dopamine receptor in the nucleus of the solitary tract of rats in stress-induced hypertension and exercise.
J Hypertens. 2024 Jul 5. PMID: 38973449. -
和気秀文, Gouraud Sabine.
12.運動トレーニングによる高血圧改善の機序――中枢性機序を中心に, 連載【健康寿命延伸に寄与する体力医学】
医学のあゆみ, 270(2), 2019
(2) 競技力向上を目指した生理学的研究
【関連研究】
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【Juntendo News】長距離走のような「きつい」運動のパフォーマンスに関わる脳内メカニズムを明らかに | 2022年8月4日
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【Juntendo Sports】運動していて「つらい」と感じるのは、なぜなのか?複雑な脳のメカニズムを解き明かす | 2021年1月26日
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Tsukioka K, Yamanaka K, Waki H.
Implication of the central nucleus of the amygdala in cardiovascular regulation and limiting maximum exercise performance during high-intensity exercise in rats
Neuroscience. 2022 Jun 8;S0306-4522(22)00290-1. doi: 10.1016/j.neuroscience.2022.06.005. -
Kim J†, Yamanaka K†, Tsukioka K, Waki H. (†Equal contribution)
Potential Role of the Amygdala and Posterior Claustrum in Exercise Intensity-dependent Cardiovascular Regulation in Rats.
Neuroscience. 2020 Feb 26. pii: S0306-4522(20)30110-X.
PubMed | Journal -
Fukuo M, Kamagata K, Kuramochi M, Andica C, Tomita H, Waki H, Sugano H, Tange Y, Mitsuhashi T, Uchida W, Takenaka Y, Hagiwara A, Harada M, Goto M, Hori M, Aoki S, Naito H.
Regional brain gray matter volume in world-class artistic gymnasts
J Physiol Sci. 2020 Sep 18;70(1):43. doi: 10.1186/s12576-020-00767-w.
Pubmed | Journal
(3) 運動意欲の神経基盤解明を目指した研究
(4) 情動と自律神経系および運動パフォーマンスに関する研究
【関連研究】
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山中航, 和気秀文
運動時の動機づけと情動-線条体と扁桃体に着目して-
体育の科学 70巻11月号(特集 運動技能を支える神経メカニズムの新知見), 2020年11月
杏林書院 -
Yamanaka K and Waki H.
Conditional regulation of blood pressure in response to emotional stimuli by the central nucleus of the amygdala in rats
Front. Physiol., 01 June 2022
(5) VRスポーツおよび宇宙スポーツに関する研究
【関連研究】
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山中航, 香月翔太, 河村剛光, 和氣秀文
仮想現実サイクリング運動時の競争他者が心血管応答および運動パフォーマンスに及ぼす影響〜自律神経生理尺度を活用したメンタルバイオマーカーの開発
The Effects of Competitors on the Cardiovascular Response and Performance during Virtual Reality Cycling Exercise – the Development of a Mental Biomarker Utilizing Physiological Parameters
デサントスポーツ科学, 第44号, 2023, 61-69. -
香月翔太, 河村剛光, 和気秀文, 山中航
VRサイクリング運動時の競争他者によって誘発される情動変化が運動パフォーマンスおよび自律神経応答に及ぼす影響
映像情報メディア学会技術報告 ITE Technical Report Vol.44, No.31, HI2020-74(Nov.2020)
技報オンラインシステム -
和気秀文, 山中航
宇宙医学における自律神経性心血管調節に関する研究
Effects of space flight on autonomic cardiovascular regulation
Precision Medicine, 2021年8月(宇宙航空医学の現在と展望)
北隆館